小沢一郎スカウトが野党のラストチャンス
危機意識欠ける同類項、安倍と前原
都内のホテルで民進党大会(9・1)を開き、前原誠司(元外相)と枝野幸男(元官房長官)の一騎打ちで、予想通り前原氏が民進党代表となった。
前原氏は「保守」で元々保守2大政党論者。毎年1兆円規模で増える社会保障費を埋めるため、消費税増税主張(注1)、時代に合致した憲法改正論者だが封印。
一方、枝野氏は「リベラル」で、野党共闘路線維持派。憲法を変える必要なし、と主張した。
党代表選前までに、これほど前原氏と枝野氏が大きな政策の違いがあるのに、なぜ、もっと代表選以前にガクヤウラで民進党としての「政策リスク合わせ」をやらなかったのか。そのスリ合わせを民主党は10年間やらず避けて逃げていたことが、バラバラ党になっていた。
そんな中で民進党というヤツは代表選トップ2人が相変わらず、青二才の書生論をぶつからイヤになっちゃう。
まして、今、世界でアジアで何が起こっているのか?知って民進代表選をやっているのか、と問いたい。
前原氏は代表選の最後の挨拶の中で、「自分が貧しい家に生まれ、学生時代のアルバイトも苦しかった。バイトの職種もいろいろ変えた‥‥」などど、代表選で、この話を中心に、教育資金のサポート、苦しい家庭の保護を訴えたが──これが代表選の重要なスピーチか、と疑う。
22年間も国会議員をやってきて、今さら学生時代のハナシか。都議選や県議選でもあるまいし。
同じことは枝野候補も前原氏に負けないほどの口調で自論をぶった。
しかし2代表候補に共通するのは、前述したようにアジアで今、何が進行しているのかといえば、北朝鮮が毎度のごとくミサイルを日本海、日本列島に向けて飛ばしてくる。
今、私がこの記事を書いている間でも、本日(9・3)昼、北朝鮮は自国内で水爆実験をして(中国との国境地帯でマグニチュード6.1)世界を驚かせた。
そして数日前(8・29)には、北朝鮮から北海道襟裳岬(私は北海道日高に帰省中)沖を飛び越えて、太平洋にミサイルが落下した。
日本国家は、そのたびに「Jアラート」という警報装置で日本列島自治体に音を響かせているが、こんなものがどこまで役立つのか?
国民はそうした目に見えない物体に毎日おびえている。いうまでもなく、北朝鮮とアメリカとの間でもめている北鮮のミサイル発射だから、国際問題であり、日本政府が関わるアジア問題でもある。
Jアラートなる話は、即、日本住民の問題であり、先日のミサイル発射(発車から10分~15分で日本列島に着弾)は、この警報が行き渡らない地方も何件かあった。
しかもJアラートの警報のたびに、戦前の空襲警報を思い浮かばされる。大人も子ども防空壕のような固い場所に「もぐれ」とか「隠れろ」などと指示しているが、これは天国と地獄のマンガの世界を行き来しているような光景だ。
もっと突っ込んで言うと、北朝鮮が真夜中に日本に向けてミサイルを飛ばしたら、「津波」並みに真夜中でも家を飛び出せ──ということか?シビアの命の問題であるが、一方で笑っちゃうマンガの世界だ。敗戦後、日本にとって初めてと思われる重大な「日本人の命狙い」の物騒な北朝鮮の動きに、今回の民進党大会で2候補とも全く発言なし。
一歩ゆずって民進党がアメリカ政府や北朝鮮政府に即発言しろ、と言っているわけではない。Jアラートがいつの間にか日本政府の「官邸でボタンを押す装置」を付けて作動しているようだが、こんなやり方でいつまで続くのか。
このJアラート問題は、日本の国会でも議論されたことはほとんどない。(あったのかもしれないが、国民に広くPRされていない)国民は不安いっぱいである。
こうした右の国民が心配する問題を民進党代表候補たちは、なぜ政府に問わないのか。そしてなぜ国民に語らないのか。日常の「生活」も大切だが、その前に「命」が問題だ。
安倍首相も政権党自民党の親分だというのに、民進党代表に輪をかけてのんびりしており、積極的な多角外交をしていない(注2)北鮮の金正恩は命がけだが、安倍首相にはそのカケラも見えない。
坊ちゃん首相は、ミサイル発射のたびに「米政府のトランプ大統領と直接電話で、日米同盟の団結を新たにした。北朝鮮は遺憾であり、抗議した。」といつも「オウム返し」のぶら下がり談話ばかり。
そんな時、やがて日本を代表する総理大臣になろうとする前原、枝野の2候補の演壇のあいさつにも私はガッカリ。2候補に政治の夢がない。国防意識と命の危機感がない。
日本の政局が破れ傘のような状態の自民に対し、民進からヒジ鉄をような発言、主張もなく、国際情勢(とくにアジアの北朝鮮問題)に日本が追い詰められているのに、いつもの通りの内政中心ののほほんスピーチだから、私はコップの中の鼠だ、と批判しているのです。
私が国会の記者時代、私(時事)の隣のデスクが朝日の細川護熙(もりひろ)記者でした。だから、細川元首相に肩入れするわけではないが、細川さんは「安全保障や憲法改正で、自民とそう変わらない政党を作り、保守二大政党が競い合う再編を狙っていた」(朝日9・2)
私もほぼ細川さんの意見に近い。それはどうしてかというと、日本の風土はまず、共産国家には絶対にならない。社会主義国家にもならないことは、戦後の政治で実験ずみ(昭和53年、村井記者は「戦後の化石、日本社会党」を執筆)
小沢一郎氏(注3)が平成5年当時、自民党を相手にして自民党幕府を倒したのは、自民以外の8政党を束にしてまとめたからである。そういう形でなければ政権交代はできない。
民進党は前原氏と枝野氏が思想の自己主張を続けている限りは、政権交代はあり得ないし、二人とも泥船に乗って沈没(=解党)の運命になるだろう。
私が現役記者時代、田中角栄首相は次のように語っていた。
「天下を取らなければ予算(現在100兆円余」だって1円も自分の力で動かせない。民主主義は数だ。数が政治を動かす力だ。」
戦後の日本社会党を見てほしい。社会党は右派と左派に分かれ、この両派の争いにエネルギーを使い果たした。
自社の「55年体制」が定着して、日本の戦後は「自民王国」となり、小沢一郎代表が民主党として政権交代するまで「自民天国」は変わらなかった。
やがて、当時の民主党は小沢の親心も知らずの鳩山、菅、野田という若僧首相たちによって「戦後初の2大政党という財産」を喰い散らかし、ギブアップして再び自民党政権へ。
今、日本の政権党自民党は、安倍坊ちゃん首相の「忖度政治」のデタラメに嫌気がさして、国民の82%が第2勢力の政党を求めている。
そんな今世紀最大のチャンスに、今の民進党の国民支持率は6%台でトホホ‥‥である。
民進党がどんなに華やかに党大会を開いても、国民から見ていると「カヤの外」でなのある。“きせかえ人形”のように顔だけ変えて登場した前原、枝野は、まだ生徒会長気分で書生論ごっごをしている。
ここで有権者は良く考えてほしい。20年前、中選挙区制から小選挙区制になった時、政権党(自民、公明)と選挙(=選挙は戦争)で競って政権交代するには、共産党は別にして野党が全員集合するか、野党解党して小沢一郎の言う「この指に止まれ」式(小沢の言葉を借りれば「オリーブの木」作戦)の野党再編成の新党を作るしか方法はない。
この法則を破れば、老人の私からみれば、我々が生きている間の政権交代はあり得ない。
(こんな時代にこそ共産党は党名を例えば「国民大衆党」のように名を変えて野党結集を図れば、自民に対抗できる勢力となり、政権交代すれば、自分たちの思い通りの政策が実現できる。それをやらないと共産党は余りにも教条主義的すぎる。(注4)
そして日本の外野席から聞こえてくる声は「旧民主党政権の挫折から5年たっても民進党は反省、総括なし」、「連合の言いなりで地盤固めやらず、地方まわりやらず、風まかせ」、「トップの顔を変えただけで、肝心の新しい政策が見えてこない」‥‥。
そこまでドンしてヒンしている中で、民進党代表選前に有力な民進議員の数人が脱党。代表選では国会議員8人が白票や無効票で抵抗しているから、民進は現有勢力からさらに去っていく議員がいる。
これから小池百合子都知事の「都民ファースト」との関係どうなっていくか、混乱もあるだろうが、こんな時こそ「救世主」としてラストチャンスの小沢一郎に救出を求めなければ、前原、枝野では「野党結集」も「政界再編」も出来ない。このままでは「民進党仲よしクラブ」で終幕する。
小沢は党の代表の座を求めているわけではないし、「自民党1強」をのさばらしている原因は野党民進党にあるのだから、国民のためを思えば、前原代表の「小沢一郎スカウト」に私は期待している。
重ねて言うが、自由党浪人の小沢引抜きが民進党のラストチャンスだ。やがて、どこからともなく自民党から秋風に混じって解散風が吹いてくるだろう──。
平成29年(2017)9月3日
村井 実
(注1)前原氏は増税の必要性を訴えているが、その理念は井手英策(慶大教授)の「AII for AII」に基づく。それは社会の仲間の皆んなのために税金を払い、不安や痛みを分かち合う。
井手教授は朝日(9・2)のインタビュー「民進、増税で勝てるのか」で次のように答えている。
2019年10月に2%上がることが決まっている。この2%の使い道を組み替えることです。1%の貧困対策はやむを得ないが、もう1%分は元の計画のよいうに借金返済に充てるのでなく、生活保障に使うべき。
幼稚園と保育園の自己負担が8千億円。介護の自己負担が8千億円で、それを合わせても消費税1%分(2.8兆円)で賄える。国民は1%の増税でこんなに生活が楽になるのか、と驚くでしょう。
もし消費税を7%上げると、約20兆円入る。10兆円を財政健全化に使うと、10兆円残る。
介護の自己負担8千億円。幼稚園、保育園の自己負担が8千億円。病院の医療費自己負担が4.8兆円。大学授業料3兆円。全部合わせて9.5兆円。すべてを無償にできない、国民負担はほぼ消える計算になる。
右のようになれば、医療や介護の不安もない。極論すれば貯蓄ゼロで不安もゼロの社会──。(以下略)
以上が井手教授の皆んなが安心できる社会像だが、日本では国民が政府を信頼していない。カネに色がついていないから、別のところに横流しされる恐れもある。
バラ色の理想の財政論だが、果たして土台のしっかりしない民進党が増税論を掲げて、党躍進できるか。絵に描いたモチのようにも思える。これをやる前に、もっと行革やムダな財源カットの声が出そうだ。
(注2)安倍政権はトランプ大統領ベッタリ主義だが、果たして単純にそれでよいのか?尖閣をめぐって安倍首相は外交拒否して現在、日中交渉は断絶。しかし、政治は「敵の敵は味方」のことわざがある通り、安倍首相は日中のパイプは残しておくべきだった。
あばれん坊・北朝鮮をいさめるには、日本は中国の力を借りなければならない状況に追い込まれている。ロシアもしかり。どんなことがあっても、「外交のパイプ」は断つべきでない。
元防衛省幹部の武貞秀士・拓大教授はテレビで「ここまでくると、日本の首相は北朝鮮ルートの何らかの外交交渉の道をさぐるべき時が来ている」(9・3)と力説。同感だ。
(注3)小沢は地方、東京問わず各界のボスまわりができる。これが出来るのは今の政界に1人もいない。前原でも枝野でも、そんな人脈、器はない。安倍首相にも、そういう小沢並みの大芸当はできない。
(注4)ここでちょっと共産主義者に「政治のトラの巻き」を教えてあげよう。日本社会の中心となっている自民党は、ほとんどが全国各地の「自治会」「町内会」の平凡な人たちだ。自民思想、自民主義のガリガリ亡者は、ほんの一握り。「共産」と名がつけば、日本の戦前の暗いイメージが浮かび、果ては今の中国、北朝鮮の共産主義が日本人の頭の中に、こびりついている。
そういう共産主義の時代は、この地球ではおしまいなのです。学生運動でもあるまいに、日本の現在は自由主義社会を謳歌しているのだから、「共産主義」の名を取るより「政権交代」の実を取って、政治の緊張関係を取り戻してほしい。
私から見れば「共産」の文字にしがみついているだだっ子のように思える。もっと大人になりなさい。「反自民」や「反権力」のスローガンで国民はついてきます。(ただし、現共産党の権力者は、現職の権利、利権を奪われるから反対するでしょうが、この構図は中国も北朝鮮も同じ)
今に永田町風景を見ていると、圧倒的国民は「自民一強」では日本のために良くない、と理解している。ワルばかりやっているのが現実政治で証明している。
2大政党で時折り政権交代できることが「健全な民主主義」で、ワルをやる確率が極めて小さくなる。
ここまで言うと、私が「反共産主義」にとられるが、そうではない。共産党の「生活苦」、「貧しい者」への配慮と、「不正」をにくみ、「正義」を通す政治を私は尊敬している。ただ「共産」の文字、活字のイメージが良くない、と指摘しているのだ。「共産」の文字を続ける限り、国民大衆を抱くことは出来ない!
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ついでに記録として残しておくが、私は昭和62年(1987)4月からタブロイド版(4頁)で毎月、「2000年クラブ」の新聞を発行してきた。この2000年のタイトルこそ「2000年(平成12)には世界の共産主義は終える」との予測で名付けたタイトル。
現実は1989年(平成元年)、東西ドイツの壁が崩壊して東ドイツは消えた。そして1991年(平成3年)ソ連邦が崩壊してソ連邦(ロシア)に近い共産衛星国は、ことごとく西側陣営(自由主義社会)入りした。
私の予測「よりも10年前倒しで世界の主たる共産国家は消滅した。当時、こうした予測は米国の有名なニューヨークタイムスもワシントンポストも予測できなかった。日本でも朝毎読の3大紙もNHKも私の予測についてこれなかった。
2000年までに世界の共産主義は崩壊すると報じた私の「2000年クラブ」の昭和62年創刊号は、消しゴムでも消えない歴史に1つのピリオドを打った。
東欧の共産主義の消滅によっっとて、私のタブロイド版新聞は役目を終えて、現在の「ジャパン・ツデイ」という新聞名に変えた。
アジアにあばれん坊の北朝鮮と、中国という共産国が残ったじゃないか──と反論されようが、北朝鮮は国家の体を成していない独裁国家だし、中国は領土、領海拡張主義の共産帝国を目指しており、国際世論はこれを許さないだろう。
この地球上に「理想の共産国家」は1国もないのに、日本共産党だけは共産主義を目指すというのは幻である、私はこの世に言い残して死んでいく──。